渋く深みのある色に、少し乱れた幾何学模様。いかにも晩秋といった風情を漂わせているのはカラスザンショウの実だ。
花は盛夏の8月、鬱蒼とした林の上に抜きん出た大木一面を盛大に飾る。
花序を見ると、かなり大きく重さもある。軸が何度も分岐して、最後に花が平らに並ぶ形は「散房状の集散花序」という表現が適切のようだ。
花は小さく径は5mmほど、白い花弁は5個、黄色の花粉をたくさん出した雄しべも5個、そして中には蜜がたっぷり溜まっている。
萼は筒状で先は5裂している。こうして見ると、軸の先端に花が付き、その両脇から側枝が出てまた花を付け、それを繰り返していることで集散花序であることがよく判る。さてこの花には雌しべはない。つまり雄花で、このサンショウの仲間はどれも雌雄異株なのだった。
雌株は雄株よりも少ないようだが、それでもあちこちで大木になっている。雌花の真ん中にある大きな緑の塊は雌しべだ。子房は3個に分かれているが、花柱は合着して、すぐに柱頭が大きな円盤状に開いている。子房の下に薄黄色の花盤があり、そこから蜜が玉になって出ている。
キアシナガバチが蜜を舐め舐めうろついていた。花は小さいが蜜は多いし無数に咲くから、雄花にも雌花にもハチやアブ、チョウ、甲虫など、いろいろな虫がたくさん来る。ミツバチも多く、その蜂蜜は柑橘系のさわやかな香りの良質なものだという。ただ大木が並んでいたりするから、あまりに蜜を集めすぎて巣箱がパンクしてしまったりで、養蜂家はうれしい悲鳴を上げることになるのだそうだ。
10月、果実が赤く実る。それらをより目立たせるためか花軸まで赤くなっている。果実はじきに割れて黒い種子が出てくる。
11月、果皮は枯れて真っ黒い種子がびっしりと並ぶ。一つの花が3個の分果になり、それぞれが1個ずつ種子を出している。
カラスザンショウの名の謂れは、サンショウに比べ全体が大きく、かつ役に立たないからだという。たぶんこの大量の種子の黒さからの連想もあるのだろう。また果実か種子をカラスが好んで食べるからという説もある。しかし果肉といったものはないし、種子は4mmほどと小さく、こんなものをあの大きな嘴でつつくだろうか。実際、観察例はないようだ。
観察ではメジロがよく来るという。しかし木にとっては、種子を消化されてしまったら元も子もない。種子は堅く、ペンチで割ってみてもかなり力がいった。これだと砂嚢で破砕されずに排泄・散布されるものがあるのかもしれない。ところで摘まんでいた指先がてかてかしてきた。表面に油分が多いようだ。もしかしたら鳥はその油分が目当てで食べるのだろうか。
大木全体に果実がびっしりと実っている。足元を見ると大きな花序が種子を付けたままばさりと落ちているのがたくさんある。こういうところにはアオジやビンズイなどよくいるので、少しは食べられるのかもしれない。しかしほとんどはそのまま枯葉や土に埋もれてしまうようだ。種子はどのくらい持つか判らないが、いつか親木が枯れたり土砂崩れでもあった時に芽生えるのだろう。
葉を透かして見る。一面に油点が目立つ。鋸歯のへこんだところにも半透明の油点が見える。これは近い仲間のイヌザンショウと同じだ。葉を揉んでみると、ミカン科にしては意外に刺激性はなく、どこか甘いような香りだった。
カラスザンショウは典型的な先駆植物で、崩壊地や伐採地などにいち早く芽生える。3月に幼木が葉を広げていた。奇数羽状複葉は、このくらいだとかわいらしいが、やがて我々の片腕ほどにも長くなる。また緑の幹にはびっしりと棘がある。幼木だと他のサンショウ類と見分けが付きにくいが、この棘のひどさで区別できる。
若木の棘もすさまじい。これではサルもヘビも登れそうにない。まあそれらは害獣ではないので、これはシカとかイノシシ除けではないだろうか。ところで白い窪みは葉痕だった。その大きさから葉の長大さが推測できる。
幹が太くなると棘の根元が盛り上がり、やがて棘は消えていき瘤だけが残る。その異様さは林の中で際立っている。そして環境の良いところでは10mを超える大木になり、瘤は左右に引き伸ばされて横筋になってしまう。幹だけ見ると同じ木とは思えないほどだ。
ミカン科は熱帯、亜熱帯系で多くが常緑樹だが、カラスザンショウは落葉性を身に付け、本州北端まで分布しているそうだ。ここ九州南端では多くの木が常緑だから、大木の落葉樹というのはそれだけで目立つ。冬、丸坊主になり、春になると新緑を、まるで怪鳥の翼のように広げる。緑あふれた南国であっても、青空に羽ばたくような鮮やかな緑を仰ぎ見ると、改めて素晴らしい季節の到来を実感したりする。
